敷地は、鎌倉の材木座から一本入った静かな住宅街。海までは直線距離で 200 m、松林の先に相模湾が広がっている。ご夫妻と小学生のお子様 2 人、4 人家族のための住まい。ご要望は "海を感じる家"、そのひと言だった。
海を主題にすると、多くの住宅は開口を最大化し、水平線を切り取る方向に進む。しかしこの敷地では、それをあえて選ばなかった。松林が潮風を和らげる一方で、視線は一年の半分しか海に届かない。そして、開けばそれだけ冬の北風も通す。
だから設計の主題は、「海の気配をどう家の中に引き込むか」に絞った。北東のハイサイドライトから朝の海面の反射光を。南の地窓から吹き抜ける海風を。2 階のご夫妻の寝室だけ、松の梢越しに水平線が覗くピクチャーウィンドウを。素材は土地の色 —— 漆喰、杉の無垢、深い茶の鉄製建具に揃え、海の色彩を "外" として際立たせた。
完成後、奥様からは「海を見るためにベランダに出る回数が、思ったより少なくて驚いた」と伺った。窓を開けずとも、家の中にすでに海の気配があるから、と。設計者として、これ以上嬉しい言葉はなかった。
構造材は三重県尾鷲産の杉を指名。柱・梁とも現しで、節の位置・木目の流れまで番付して組み上げた。壁は漆喰の三度塗り、左官職人が 6 日間かけて仕上げている。
開口部の木製建具は、藤沢の建具職人 —— 三代にわたる仕事 —— に発注。密閉性・機能性と、手仕事ならではの陰影を両立する、納まりの最適解を何度も試作した。
竣工写真では見えない部分 —— 床下の断熱、気密テープの貼り方、サッシと躯体の取合い —— にこそ、10 年後の家の姿が宿る。そう信じて、監理を徹底した案件。
敷地を一緒に歩くところから。
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